2022.11.15 (火)

ICT教育における格差とは?
文科省データで探る教育格差解消のヒント

ICT教育における課題のひとつに、さまざまな格差があります。
GIGAスクール構想は、そもそも教育格差をなくすことを旗印に立ち上がった文部科学省のプロジェクトですが、「1人1台のICT端末」が運用段階に入った後、ICT活用率やリテラシーの面で、多くの格差が生まれています。2022年現在では、そうした課題解消に向け、さまざまな取り組みが模索されています。
この記事では、文部科学省による2021年度の調査データ「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」と「令和5年度 概算要求のポイント」から、ICT教育における格差の実態と課題を解消するためのヒントについて、わかりやすくご紹介します。

ICT教育における格差の実態とは?【データ深掘り】

教育格差解消イメージ

ここからは、文部科学省による2021年度の調査データ「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」に基づき、ICT教育による地域格差の実態について掘り下げます。

「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(2021年 文部科学省)

ICT教育における格差①:ICT活用指導力

文部科学省では2021年度における「教員のICT活用指導力」について、以下の4つの項目を調査しました。

  1. 教材研究・指導の準備・評価・校務などにICTを活用する能力
  2. 授業にICTを活用して指導する能力
  3. 児童生徒のICT活用を指導する能力
  4. 情報活用の基盤となる知識や態度について指導する能力

それぞれに「できる」もしくは「ややできる」と回答した教員の割合は、地域により格差があります。それぞれの項目が高い地域、低い地域は以下のとおりです。

  1. 校務などでのICT活用能力 
    ⇒ 愛媛県:96.2% 島根県:83.7%
  2. 授業でのICT活用能力 
    ⇒ 愛媛県:92.3% 島根県:65.7%
  3. 児童生徒へのICT指導能力 
    ⇒ 愛媛県:92.6% 島根県:68.6%
  4. 情報活用の指導能力 
    ⇒ 愛媛県:95.8% 島根県:78.1%

いずれも愛媛県が最も高く、島根県が最も低いという結果が出ています。

ICT教育における格差②:ICT研修受講率

都道府県別ICT研修受講率

また、ICT研修を受講した教員の割合も、地域により格差があります。
90%以上が受講している地域は以下のとおりです。

  • 茨城県:91.5%
  • 石川県:93.7%
  • 長野県:96.2%
  • 岐阜県:92.4%
  • 鳥取県:90.7%
  • 愛媛県:95.8%
  • 長崎県:96.6%
  • 熊本県:94.9%
  • 鹿児島県:93.0%

一方、受講率が50%台にとどまっているのは以下の地域です。

  • 神奈川県:58.0%
  • 和歌山県:54.5%

ICT教育における格差③:ネットワーク環境

ネットワーク環境においても、地域格差が目立ちます。インターネットへの接続は、ほとんどの地域で整備されているものの、その通信速度に格差があります。

この調査が行われた2021年現在、100Mbps以上の回線は、多くの地域で接続しているものの、1Gbps以上の回線を整備している地域はいたって少ない状況です。

1Gbps以上の回線で、最も高い接続率を誇るのは三重県の89.6%です。一方、岩手県(26.8%)や山口県(28.7%)など、整備の遅れている地域もあります。

多くの生徒が一斉にインターネットを利用する授業では、高速回線が必要です。ことにデジタル教科書が本格導入される2024年度からは、より高速なネットワークが求められることになるでしょう。

「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(2021年 文部科学省) >都道府県別「コンピュータの設置状況」及び「インターネット接続状況」の実態

2023年度の概算要求のポイントは「ICT格差解消」【予算深掘り】

ここからは、2023年度の文部科学省の概算要求(予算方針)を深掘りしていきましょう。
そのポイントは、ずばり「ICTによる格差の解消」です。

令和5年度概算要求のポイント

学校DX

文部科学省は2023年の概算要求に「GIGAスクール構想・学校DX関連」として億単位の予算を計上しています。
「学校DX」のなかでも、新規で3億円を計上している「リーディングDXスクール」という新しい事業は注目に値します。

全国から、およそ100校のリーダー校を定め、学校DXにつながる効果的な取り組みを創出する一方、GIGAスクール運営支援センターやICT支援員を活用して、教育格差解消の課題を抱える自治体や学校を重点的に支援していきます。

教育格差解消

教育格差解消の拠点となるGIGAスクール運営支援センターについても、独自に予算を計上しています。「GIGAスクール運営支援センターの機能強化」として102億円。前年度の10億円と比較すると、およそ10倍という大幅な増額になります。

この「GIGAスクール運営支援センターの機能強化」予算では、次のような課題の解消を目指しています。

  • 端末の利活用状況における地域格差の解消
  • 教師が自信を持ってICTを活⽤できる体制づくり
  • 児童・生徒が日常的に端末を活用する環境の整備

教師の働き方支援

さらに教員の働き方支援にもつながる「次世代の校務デジタル化の推進」には、新規で10億円の概算要求を計上しています。

教育委員会と教育の現場の理解を得ながら民間事業者を活用し、およそ3年かけて次世代の校務のデジタル化モデル実証研究を行うための予算です。事業終了から5年後を目途に、全国レベルでのシステム⼊れ替えを目指しています。

さらに教師の時間外労働を圧迫していると言われる部活指導の課題について「部活指導員の配置など外部の支援スタッフの拡充」に対し、前年の18億円から大幅アップの118億円を計上。
民間事業者と連携することで教員の働き方改革を推進し、学校教育の質も向上させる取り組みです。

ICT教育の格差を解消するヒント

最後に、ICT教育における地域格差の解消につながる考え方を2つご紹介します。

ICT教育の格差を解消するヒント①:ゴールを定める

ICT教育の格差を埋める考え方、まずは、「明確なゴールを定める」ことです。

ICT端末の導入は目的ではありません。あくまでも「ICTを使った新しい教育」というゴールを達成するための手段であることを、もう一度認識しておきましょう。

  • 授業をどう設計して、何を提供するか?
  • 児童・生徒がどのようなスキルを身に付けるか?

といったICT教育のゴールを明らかにすることで、具体的な行動が見えてくるのではないでしょうか?

ICT教育の格差を解消するヒント②:民間企業や大学と連携する

ICT教育の格差を解消する考え方のふたつ目は、「民間企業や大学との連携」です。

例えば、熊本市では、教育ICTの推進を目指し、NTTドコモ・熊本大学・熊本県立大学と連携して協定を締結しました。教科ごとの「ICT活用モデルカリキュラム」の開発や各種研修の実施、プログラミング教育の普及・促進のための活動などに取り組んでいます。

奈良県では教育委員会がデジタルコンテンツの人材養成スクール・大学・大学院を運営するデジタルハリウッド株式会社と連携し、県内の公立学校の教員を対象に授業づくりのサポートを行っています。

ICT教育のような新しい取り組みでは、得意分野のある民間企業や大学と連携することで、導入や運用がスムーズになることがあります。

まとめ

  • ICT教育による地域格差:
    • ICT活用指導力
    • ICT研修受講率
    • ネットワーク環境
  • ICT教育による地域格差を解消するヒント:
    • ICT教育の格差解消を目指し、文科省は2023年度の概算要求で大幅な予算を組んでいる。
    • ICT教育の格差を解消するには明確なゴールを定めることが大切。
    • 民間企業や大学との連携もICT活用の推進につながる。

以上、ICT教育の格差についてデータや概算要求のポイントを踏まえて、わかりやすく解説しました。

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ヘルプデスクは、対面ではなく、メールや電話が基本となりますが、多岐にわたるICT業務について気軽に問い合わせできるのがメリットです。研修をするほどではないが、ICTの素朴な疑問に応えます。

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参照元:

  • いまさら聞けないICT教育!基本知識・課題・得られる効果を徹底解説(みらいスクールステーション~富士ソフト:Webページ)
  • ICT教育の課題3つとその要因8つ|今ある課題の改善方法とは(SAMURAIエンジニアblog:Webページ)
  • e-Stat 政府統計の総合窓口(独立行政法人統計センター:Webページ)
  • 令和5年度 概算要求のポイント(文科省:PDF)