GIGAスクール構想「高速ネットワーク」の課題と解決のヒント。

GIGAスクール下のネットワーク環境には、まだ多くの課題が残されています。
GIGAスクール構想の提唱によって、全国の学校に高速ネットワークが配備されました。その導入率は98.0%で、ほぼ全国に配備された状況ですが、運用面での満足度は低く、多くの課題が残されていることがわかります。
教育の現場からはネットワークに「つながらない」、「遅延する」、あるいは「フリーズする(止まる)」といった声が多く寄せられています。2024年から始まるデジタル教科書の本格活用を前に、ネットワーク環境の整備と高速化が急がれているのです。
この記事では、校内ネットワークの課題をデータをもとに整理しながら、GIGAスクール構想下のネットワーク環境を改善するヒントについても紹介します。

GIGAスクール導入後のネットワーク環境【データが語る】

高速ネットワークイメージ

ここからは、GIGAスクールによって配備された学校ネットワークに関する現状について、下記のデータをもとにご紹介していきましょう。

文部科学省「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」(文科省:PDF)

日経BP「GIGAスクール構想の取り組みに関する調査」(日経BPスペシャル:Webページ)

GIGAスクール導入後のネットワーク環境についての満足度は50%強

文部科学省による「GIGAスクール構想に関する各種調査の結果」と、日経BPが全国の自治体を対象に行った『GIGAスクール構想の取り組みに関する調査』によると、2021年5月時点で校内ネットワークの供用を開始した学校の割合は98.0%となっています。

このように100%近くネットワーク環境が整っているにもかかわらず、その環境に対する満足度はそこまで高くはありません。
「インターネット回線への満足度」についてアンケートをした結果によると、以下のような結果が出ています。

  • 満足している:55.6%
  • どちらともいえない:17.7%
  • 満足していない:26.7%

「満足している」という回答が半数を超えている一方、「満足していない」と回答した自治体も30%近い点にご注目ください。
ネットワークに「満足できない」理由は、次のようなトラブルがあるからです。

  • 校内でテレビ会議を利用するとフリーズする(止まる)
  • 大規模校で帯域不足となりインターネットの遅延が頻出する

また、ICT教育の実施において「安定した通信環境での授業が難しい」「スムーズな通信環境にするにはコストがかかる」などさまざまな課題を感じており、快適な通信環境の整備にはコスト面の負担が大きいという声も届いています。

学校のネットワーク回線は「ベストエフォート型」が70%

インターネット回線は「ベストエフォート(besteffort)型」と「ギャランティ(Guarantee)型」に大別され、この回線のタイプが学校のネットワーク環境の問題に関わっています。

  • ベストエフォート(besteffort)型回線:
    「可能な場合にのみ」最大通信速度と品質を、廉価に提供する
  • 「ギャランティ(Guarantee)型」回線:
    帯域を保証することで、一定の通信環境を確保できる

「ベストエフォート型」では、「可能な場合にのみ、最大の速度と品質を提供する」というところがポイントで、言い換えると回線の混雑状況によっては低速になる可能性があります。その分、コストパフォーマンスに優れています。

対して、「ギャランティ型」は指定の帯域を確保することで、通信速度を常に保証する回線です。その分、高コストになっています。調査によると、学校が利用している回線は、ベストエフォート型が約70%を占めており、ギャランティ型は9%以下にとどまっています。

つまり、予算を抑えた回線を選択していることが、通信環境の満足度を下げる要因ともなっているのです。

ネットワークの速度に関係する帯域は、1-2Gbps未満が80%

回線の帯域は、ネットワークの通信速度に大きく関係する指標です。帯域は、通信に用いる周波数の範囲のことで、その数値が高いほど通信速度も上がりますが、調査では、およそ半数を占める学校が通信速度1Gbps未満であり、全体的にも約80%の学校が1-2Gbps未満にとどまっています。

ネットワークの負荷は接続台数によっても大きく異なるため、生徒数に合わせたインフラ環境の柔軟な対応が求められている状況がわかります。

学習用ICT端末のネット回線は「直接接続型」が60%以上

GIGAスクールによって配備されたICT端末からの回線の構成も、学校ネットワークの課題と関係します。端末からのネット回線は、次の2つのタイプに分けられます。

  • 直接接続型(ローカルブレイクアウト):
    学校から直接インターネットに接続する
  • センター集約型:
    市区町村あるいは都道府県で構築したネットワークに接続する

これまでは充分な帯域の確保が難しい「センター集約型」が主流でしたが、近年は「直接接続型」へ移行する学校が60%を超えました。

学校ネットワークでよくある不具合と想定される原因

ネットワーク環境は整備されているものの満足度が低いのは、「端末が遅い」「フリーズする」など実際の授業進行に支障があるからです。

ここからは、学校ネットワークでよくある不具合と、一般的に考えられる原因を説明します。

GIGAネットワークの課題①:「GIGA端末が遅くなる」「フリーズする」

GIGAスクール導入後の校内ネットワークでよくある不具合はとしては、次のようなものがあります。

  • ICT端末の通信速度が遅い
  • 端末がフリーズする(止まってしまう)

ここでは、ICT端末で動画視聴のような操作ではなく、単純な操作、たとえば検索をかけるだけでも画面が固まったり、システムにログインできなかったりする状況を指しています。

端末の通信が遅い原因としては、狭い帯域に各生徒の端末が一度に集中している状況が考えられます。ネットワークの通り道である帯域に多くの端末が一斉に通過しようとして゛渋滞゛が起きているのです。

その問題が帯域に起因する場合、回線のタイプを変更したり、帯域を広げたりすることで解決できますが、コストが跳ね上がる可能性もあります。

2024年度から本格導入が予定されているデジタル教科書は、1度のダウンロードで80M以上の大量のデータを消費すると言われており、現在でも端末が頻繁にフリーズするような場合、校内ネットワーク環境を全般的に見直す必要があるでしょう。

GIGAネットワークの課題②:「特定の時間に接続できない」

学校ネットワークでよくある不具合には、次のような課題もあります。

  • 特定の時間帯になると、どの端末からもインターネットに接続しにくくなる

技インターネットが接続しにくい問題は、一般的に、さまざまな通信が特定箇所に集中した場合に起こる現象とされます。

通信事業者との契約と使用人数や通信量に見合った契約になっているか確認するとともに、インターネット接続回線がセンター集約型であれば直接接続型に変えたり、より高速な通信帯域のメニューへ変更するといった対処法が求められます。

GIGAネットワークの課題③:「特定の場所で接続できない」

さらに、時間だけでなく、場所についての課題もあります。

  • 校内や教室内など特定の場所で接続できない

特定の場所でつながらないという問題は、機器・ネットワークの設定や、機器の配置・配線に問題があることで起こりやすい現象です。この場合は、端末の設定を変更する、あるいは機器間の電波干渉がないかを確認します。

上記以外にも、機器の性能やサイト側の制約など、さまざまな原因が考えられます。

GIGAスクール環境下でのネットワーク改善のヒント

ここからは、GIGAスクール環境下における校内ネットワークの不具合を改善する方法として、帯域の増強やデータキャッシュ機能を使ったコンテンツの共有についてご紹介します。

学校ネットワーク改善のヒント①:クラウドを使った直接接続(ローカルブレイクアウト)

GIGA環境下の通信環境を改善する前提としては、校務などの機密情報や個人情報が飛び交う回線と、学習用回線を分けて考えましょう。

通信環境を改善するには、ネットワークの帯域を増強する方法が効果的ですが、これまで紹介したとおり、ネットワークの増強にはコストがかかり、予算内との折り合いがつかない場合も少なくありません。

学習用回線でコストをかけずにスムーズな通信環境を実現したい場合に有効なのが、直接接続型(LBO:Local Break Out:ローカルブレイクアウト)の利用です。

直接接続型は、自治体などのネットワークを経由することなく、学校からの回線で直接インターネットに接続する方式で、通信を分散することで不具合を解消することが可能です。

インターネットと学校が直接つながるため、セキュリティ対策としてクラウドサービスを利用することが前提です。クラウドサービスとセキュリティの関係については、基本的な知識が求められます。

学校ネットワーク改善のヒント②:キャッシュを使ったコンテンツの共有

ネットワーク改善に有効な、そのほかの方法として、キャッシュを使ったコンテンツの共有があげられます。キャッシュとは、表示したWebページのデータを一時的にコンピュータ内に保存する機能です。

動画などデータ容量の大きいコンテンツをダウンロードして利用する際、一人がダウンロードしたコンテンツをクラスの全員で共有することで、通信量を削減できます。ダウンロードしたデータを自動的に学校内にあるデータキャッシュ機器に保存し、ほかの端末はインターネット通信を利用せずスムーズにデータアクセスができるのがメリットです。

まとめ

  • GIGAスクール導入後のネットワーク環境:
    • GIGAスクール導入後のネットワーク環境についての満足度は50%強
    • 学校のネットワーク回線は「ベストエフォート型」が70%
    • ネットワークの速度に関係する帯域は、1-2Gbps未満が80%
    • 学習用ICT端末のネット回線は「直接接続型」が60%以上
  • 学校ネットワークでよくある不具合と想定される原因:
    • 端末が遅くなる
    • フリーズする(止まる)
    • 特定の時間や場所で、接続できない
  • GIGAスクールのネットワーク改善のヒント:
    • クラウドサービスを使った直接接続(ローカルブレイクアウト)
    • キャッシュを使ったコンテンツの共有

以上、GIGAスクール導入後のネットワーク環境の現状と改善のヒントをご紹介しました。

【ヘルプデスクのご紹介】

もしネットワーク環境について相談したい場合は、まずはICT支援員に相談するのが解決の早道です。

ただし、ICT支援員は慢性的な人手不足に加えて、複数の学校を巡回するため、校内に常時待機しているわけではありません。ICT支援員不在時に気軽に問い合わせできるところから、ICT支援員に加えてヘルプデスクを併用する学校も少なくありません。

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またKDCでは、クラウドサービスのセキュリティ強化のために制定されたISO27017を取得。国際規格に準拠した堅牢なセキュリティの構築を行っています。

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参照元:

  • GIGAスクール構想に関する各種調査の結果(2021年8月)(文科省:PDF)
  • GIGAスクール構想のネットワークを調査(日経BPスペシャル:Webページ)
  • GIGAスクールあるある「先生! パソコンが遅くて調べものが進みません」にどう対処すればいい ?(TECHマイナビニュース:Webページ)