【個別最適な学び】GIGAスクールが目指す教育の理想形とは?
「個別最適な学び」は、GIGAスクール構想に基づいた次世代の教育をけん引するキーワードとして注目されています。
児童・生徒一人ひとりの学びの進み具合や個性にあわせて指導を行う「個別最適な学び」は、実は、新しい概念ではありません。すでに1989年の学習指導要領には「個に応じた指導」というフレーズが現出しており、それを、文部科学省の中央教育審議会が、再定義して「個別最適な学び」というキーワードが生まれました。
30年以上の時を経て、再び、このキーワードが注目されている背景は、デジタル技術の進歩があります。ICT教育の進化に伴って、生徒の多様性に対応した指導が実現可能になってきたのです。
この記事では、「個別最適な学び」の定義をわかりやすく解説するとともに、実際にICT端末を有効利用しながら個別最適な学びに取り組んでいる事例や、実行する際の課題についてもご紹介します。
(2022/12/16 初出 2023/7/21 更新)
「個別最適な学び」とは? 求められる背景とは?
この項目では、「個別最適な学び」という言葉の定義と、その背景を掘り下げます。
個別最適な学びとは? GIGAスクール構想との違いは?
「個別最適な学び」とは、文部科学省が定めた次世代の学校教育のビジョン「GIGA(ギガ)スクール構想」のコンセプトのひとつです。
「個別最適な学び」とは、生徒の個性に応じて、「指導の個別化」と「学習の個性化」を目指すというもので、それぞれのキーワードには、次のような意味があります。
- 「指導の個別化」
基本的な知識や技能の習得のために、生徒の状況に合わせて柔軟に指導する。 - 「学習の個性化」
生徒各自の興味や関心事のために、専門性の高い教員が学習機会を提供する。
この「個別最適な学び」を深めるために前提となるのが、ICT(情報通信技術)です。
小・中学生が、一人一台与えられたパソコンやタブレットで学習することを目指す文部科学省のGIGAスクール構想、そのコンセプトのひとつが「個別最適化学習」であり、「個別最適な学び」とは、ICT教育と密接にかかわりのある考え方として注目を浴びているのです。
個別最適な学び? 協働的な学び?
その違いは?
「個別最適な学び」とともに、注目されている言葉が「協働的な学び」です。このふたつの言葉を対比させながら、それぞれのビジョンを立体的に浮かび上がらせてみましょう。
「個別最適な学び」が、生徒一人ひとりの個を尊重した学習デザインなのに対して、「協働的な学び」とは、学校をはじめ、家庭や地域など他者との関係のなかで、お互いの個性を認めあい、連携しながら、主体的に挑戦できる力を育むというものです。
「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、それぞれが連動しながら相乗効果を生みだしていきます。
個別最適な学びが目指す授業デザインとは?
「個別最適な学び」が実行に移された授業デザインとは、言い換えると、ICT端末の機能をフル活用した授業であるといえます。
たとえば、ひとり一台に割り当てられたパソコンやタブレットには、スタディ・ログ(学習履歴)が蓄積されていきます。いわゆる、ビックデータです。
他業界ではすでに始まっているビックデータの利活用を教育の現場にも取り入れて、学びをデータ化するのです。
学びのデジタル化によって、教員は、生徒各人の理解度や進捗状況、適正を把握しやすくなります。生徒の個性にあわせた教材の提供はもちろんのこと、生徒自身が自らのデータを活用することもできます。
「個別最適な学び」というコンセプトに基づいたICT教育は、授業そのものを変えていくのです。
「誰ひとり取り残さない」というコンセプトの真の意味とは?
「個別最適な学び」とは、文部科学省が掲げるGIGAスクール構想のコンセプトのひとつであることは前項でお話ししました。
この文部科学省のビジョンには、前段があります。
実は「多様な子どもたちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学び」というフレーズの一節なのです。
このフレーズを深掘りしていくと、たとえば不登校の生徒、障害のある生徒、外国籍の生徒、経済的に困窮している家庭の生徒など特別な支援が必要な生徒も含めて、生徒それぞれの能力や適性に合わせて最適化された学びを実現することを意味しています。
個別最適な学びとは、生徒の多様性を認めるとともに、「誰ひとり取り残さない」ことも意味しているのです。
「個別最適された学び」事例紹介
この項目では、個別最適な学びを実践する具体例をご紹介しましょう。
脈拍から集中力を図る、
埼玉県の事例
埼玉県久喜市鷲宮中学校では、民間企業と組んで、個別最適な学びのための実証実験を行っています。
同校の2年生128人から国語や数学などの授業中の脈拍データを収集。
IOT型のリストバンドを装着して脈拍データ取得すると同時に授業の様子を動画撮影し、脈拍と動画の内容を比較して、生徒たちがどのようなときに集中力か高まるかを検証しているのです。
この実証実験は国内でも初めての試みです。
生徒ごとの学習状況を把握して、個別最適な学びの環境を整えようとしています。
地域の課題をテクノロジーで解説する、
群馬県の事例
群馬県では、県内在住、県内へ通学する中・高生を対象に、地域の課題をテクノロジーで解決するプロジェクトを始動しています。
その名も、「始動人Jr.キャンプ」。プログラミング教育の一貫として実施されています。
「始動人」とは、「主体的に考えながら、新しいフィールドで動き出す人」という意味が込められた造語。正解ではなく、納得解(納得のいく答え)を導きだす個別最適な学びに即したプログラミング教育と言えます。
先端のテクノロジーに触れながら、群馬の未来を考える7日間の学習プログラムで、トップランナーたちから学び、課題解決型学習を基本にプログラミングやフィールドワーク、グループワークを体験します。
参考:教育イノベーション・自由な発想育成プロジェクト「始動人Jr.キャンプ2021」参加者募集中
「個別最適な学び」の課題とは?
この項目では、個別最適な学びを実行に移す際の課題について考えていきましょう。
課題①:ICT教育担当教員の負担の増大
個別最適な学びが進みICT端末が頻繁に授業で利用されることで最も負担が増えるのが、ICT担当教員です。現段階で十分忙しい担当者に、これ以上の負荷をかけないようにするためにも、ICT端末の導入と同時に真っ先に検討するべきは、ICT教育担当教員をサポートできる体制づくりです。
ICT担当教員をサポートする外部メンバーとして、ICT支援員がいます。ICT支援員は、パソコン、タブレット、プロジェクターなどのICT機器の使い方やデジタルを使った効果的な授業のすすめ方のノウハウを持ち、実際にICT端末を使った授業を支援します。
ICT支援員については、文部科学省が2022年までに4校にあたり1人の割合でICT支援員の配置を推奨していますが、現状では人員の確保が簡単ではありません。
課題②:教育データの利活用
個別最適な学びを実現するには、生徒の端末に蓄積されたスタディ・ログ(学習履歴)からビックデータを取得し、分析し、新しい授業スタイルを形作るためにフィードバックすることが前提です。
しかし、そのデータの扱いや分析には、専門家の力が必要です。
また長期的に見れば、クラス単位、学校単位だけのデータ運用は有効とはいえず、自治体、県など、ある程度の規模での一元管理が可能になってこそ、はじめて、次世代の授業デザインが明確になってくるはずです。
しかし現状では、この教育ビックデータの有効活用については、まだ明確な指針はありません。
まとめ
- 個別最適な学びとは?:
生徒の個性に応じて、「指導の個別化」と「学習の個性化」を目指すICT教育のひとつ。 - GIGAスクール構想との違いは?:
GIGAスクール構想のコンセプトのひとつが「個別最適化学習」である。 - 「協働的な学び」との違いは?:
「個別最適な学び」が、生徒一人ひとりの個を尊重した学習デザインなのに対して、「協働的な学び」とは、学校、家庭や地域など他者との関係のなかで学ぶ。 - 「個別最適な学び」の課題とは?:
- ICT教育担当教員の負担の増大
- 教育データの利活用
以上、「個別最適な学び」について、事例や課題も交えてご紹介しました。
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参照
- GIFU Webラーニング(岐阜県教育委員会)
- 広報くき 2021(令和3年)
- 久喜市における日本初の「バイタル情報を学びに生かす」実証実験への協力について
~GIGAスクール構想における「個別最適化された学び」の実現に「みまもりがじゅ丸®」を活用~(【公式】NTTPC) - 教育イノベーション・自由な発想育成プロジェクト「始動人Jr.キャンプ2021」参加者募集中(群馬県)