ICT端末の持ち帰り学習、事例からわかる
スムーズな運用のアイデア。
ICT端末の持ち帰り学習が増えています。
GIGAスクール構想に基づいた1人1台端末をより充実しい活用するため、文部科学省は、授業で使う端末を家庭でも活用する持ち帰り学習の啓もうを始めています。
たとえば、2022年の夏休みでは自治体が端末の無償貸出を開始、また学校閉鎖などの非常時には、公立の小・中学生の95.2%が端末の持ち帰りの準備を整えるなど、持ち帰り学習のための整備が整いつつある状況です。
持ち帰り学習は家庭と学校の学習をシームレスにするなどメリットが高い反面、セキュリティなどの問題もあり対策が必要です。
この記事では、端末の持ち帰り学習の現状や各自治体の事例、安心・安全に実施する方法をわかりやすく解説します。
ICT端末の持ち帰り、実施状況
端末の持ち帰り学習の実施状況について、文部科学省の調査をもとにご紹介しましょう。
2021年7月の段階では、持ち帰り学習はあまり活発ではありませんでした。2021年当時の文科省調査によると、平常時のICT端末の持ち帰り学習の実施状況については「準備中」が最も多く、51.8%と半数を超えています。一方、「実施している」が26.1%、「実施・準備をしていない」が22.1%という結果でした。
持ち帰り学習の実施は全体の4分の1程度という状況を受けた文部科学省は 夏休み期間中に1人1台端末の積極的な利活用を推進するよう、全国の教育機関に要請を出しました。
これにより各学校が夏休みの課題に取り組むためのタブレット端末貸出を行い、持ち帰り学習が増えつつある状況です。文部科学省の推進により、今後もこの傾向は拡大することが予想されます。
端末の持ち帰りのメリット
端末の持ち帰り学習には、以下のようなメリットがあります。
- 学校と家庭でシームレスな学習ができる
- 協働学習ができる
- 夏休み・冬休み期間も学習を継続できる
夏休みや冬休みといった長期間の休みであっても、ICT端末を通して学校の学びを途切れることなく継続できます。またタブレットを通じて、友だちやクラスメイトとの協働学習も可能になります。
デメリット
持ち帰り学習はメリットだけではなく、次のようにデメリットな側面もあります。
- セキュリティ上の問題
- 紛失や損壊
- ネット依存
- 健康問題
持ち帰り学習は学校側の端末管理が難しく、セキュリティ上のリスクや紛失・損壊の恐れ、ネットへの依存などの問題があります。さまざまな状況を想定した事前の対策が求められます。
端末の持ち帰り学習の事例
ここからは、端末の持ち帰り学習の取り組みについてご紹介します。
新潟県新潟市の事例:動画で持ち帰り学習を啓もう
新潟県新潟市では、2021年8月から、持ち帰りを前提とした保護者向けのPR活動やガイドラインを提示してきました。その目的は「学習の継続」と、「学校との連絡を円滑に行うため」です。
実施の時期や頻度は、子どもの発達段階・学校の事情などから各学校の校長が判断するとしています。
自宅にインターネット環境が整備されていない家庭には、オフラインの利用でも可能な宿題を出し、家庭での端末使用を承諾されていない生徒には、紙でも可能な課題を出すなど、児童生徒のさまざまな状況に対する配慮も怠りません。
また持ち帰り学習の活用についての動画も制作しています。
滋賀県野洲市の事例:保護者の理解を深めるため、しおりを作成
滋賀県野洲市の小・中学校では、2022年度から端末を活用した学習が始まりました。学期はタブレットで使うIDを配り、タブレットドリルで反復学習をしたりアンケート機能を使って意見を集めたりするなど、活用機会を増やしています。
2学期からは必要に応じて端末を持ち帰り、家庭で学習する取り組みがスタートしました。持ち帰り学習の効果を高めるには保護者の理解を得るために、「タブレット活用のしおり」を作成しています。
奈良県奈良市の事例:専用のサポートデスクを設置
GIGAスクール構想について常に積極的な取り組みを続ける奈良県奈良市では、2020年10月から端末の持ち帰り学習を開始しています。持ち帰り学習を日常的に実施することで、緊急時にも混乱が起こらないようにするという意図で、各学校には、持ち帰りする理由を保護者に伝えることの重要性を周知しています。
持ち帰り学習の運用ルールについては保護者に確認書の形で同意を得ています。さらに運用では、専用のサポートデスクを設置して、保護者や児童・生徒からの問い合わせ・故障などの連絡にも対応するなど、持ち帰り学習のリスクを支援する体制が整備されています。
なぜGIGA端末って持ち帰り運用にしないの?ー安心して子どもたちに使わせられるようにー
端末の持ち帰り学習を安心・安全に実現する方法
ICT端末の持ち帰り学習には課題も多く、安心・安全に利用するためには一定のルールが必要です。また、持ち帰り学習を最適化するサービスを利用するという方法もあります。
最後に、持ち帰り学習を安全に行うための施策について、ご紹介しましょう。
端末の持ち帰りをルール化するために
ICT端末を自宅に持ち帰り、安心・安全に利用するためには、適切なルールが必要になります。
児童生徒とのルールづくり
学校におけるルールづくりの手順は、次の記事が参考になります。
文部科学省も後押しするICT活用事例:校則見直しプロジェクト
ポイントは、ルールづくりは、教員が一方的に決めるのではなく、児童・生徒と話し合いながら作り上げる点です。要するに、生徒にルールを押し付けるのではなく、教員は生徒の発言を促すファシリテーターとしての役割を担い、生徒の意見を促しながら整理してまとめていくことになります。
また、生徒たちが作ったルールは、形骸化しないために教室の壁に掲示したり端末の画面に表示したりするなど、つねに目に触れる場所に掲出するための工夫も必要になるでしょう。
保護者への理解促進
持ち帰り学習については、保護者の理解と協力が不可欠です。
野洲市 「タブレット活用のしおり」には、タブレット学習の効果から取り扱い方法、さらには家庭でWi-Fiにつなぐ方法まで、保護者が持ち帰り学習を支援するための内容が過不足なく盛り込まれています。
また、文部科学省では、主にタブレット使用時の健康面についての注意事項をまとめたリーフレットを用意しています。
端末利用に当たっての児童生徒の健康への配慮等に関する啓発リーフレットについて
端末の持ち帰り学習を最適化するサービス
端末の持ち帰り学習をサポートするサービスや取り組みもあります。こうしたサービスを利用することで、持ち帰り学習のデメリット解消にも役立つでしょう。
3つのサービスや取り組みを紹介します。
MDM(モバイルデバイス管理)
MDM(モバイルデバイス管理)とは、端末を一元的に管理・運用するとともに、セキュリティを維持・強化するためのソフトウェアです。学校における大量の端末を管理・運用し、作業を効率化するのに役立ちます。
MDMにはさまざまな機能があります。遠隔地からの端末ロックや紛失時の第三者による不正利用防止など持ち帰り学習におけるセキュリティ対策ができるほか、端末の管理者の負担を軽減できるのがメリットです。
MDMについては次の記事で詳しく説明していますので、ぜひチェックしてみてください。
学校端末に欠かせないMDMサービスを事例で紹介。運用時のポイントも。
BYOD
BYODとは「Bring Your Own Device」の略で、学校では、生徒が所有する端末を授業で使う取り組みを指す言葉として使われています。なかには、授業での活用を目的とした端末を低価格で販売するなどしてBYODを推進している自治体もあります。
自己所有の端末であれば持ち帰り学習が容易になり、学校と家庭でシームレスな学習を実現します。
三重県が採用したBYODの取り組みについては以下の記事で紹介しているため、合わせて参考にしてください。
BYODを高校に導入する5つのメリット。注意したい3つのポイント。
遠隔サポート
持ち帰り学習に不安が残る場合は、奈良県奈良市の取り組みのように専用のサポートデスクを用意したり、民間事業者の遠隔サポートを利用したりする方法があります。
遠隔サポートとは、操作がわからなかったり不具合があったりした場合に、電話サポートや端末の画面を共有しながら、支援を受けられるサービスです。
遠隔地にいる事業者が生徒の端末を直接操作するため、口頭では説明が難しい端末の問題点を迅速に見極めて、スムーズな解決に導きます。
持ち帰り学習で端末の操作がわからない、トラブルが起きたといった場面で活用できます。
まとめ
- 端末の持ち帰り学習の現状:
- 2021年の夏休みから端末の貸し出しが推奨されており、持ち帰り学習が広まりつつある。
- 持ち帰り学習は学校と家庭でシームレスな学習ができるなどのメリットがある一方、セキュリティリスクや紛失などの問題もある。
- 端末の持ち帰り学習の事例:
- 新潟県新潟市の事例:動画で持ち帰り学習を啓もう
- 滋賀県野洲市の事例:保護者の理解を深めるため、しおりを作成
- 奈良県奈良市の事例:専用のサポートデスクを設置
- 端末の持ち帰り学習を安心・安全に実現する方法:
- 授業で児童・生徒と話し合ってルールを決め、いつも意識できるような工夫が必要
- MDMやBYOD、遠隔サポートといったサービスの利用も有効
以上、端末の持ち帰り状況をわかりやすく解説しました。
【ヘルプデスクのご紹介】
端末の持ち帰り学習を安心・安全に実現するためには、民間事業者のヘルプデスクを利用することで補うこともできます。
ヘルプデスクであれば、メールや電話で問い合わせに対応してくれます。ちょっとした疑問も気軽に尋ねることができます。日常のICT業務は多岐にわたるため、ICT支援員とヘルプデスクを併用する学校も少なくありません。
ヘルプデスクは、対面ではなく、メールや電話が基本となりますが、多岐にわたるICT業務について気軽に問い合わせできるのがメリットです。
KDCのヘルプデスクには、ICT支援員やシステムエンジニアなどICTのプロフェッショナルが常勤しており、端末のトラブル対応からアプリの基本操作まで幅広く支援します。もちろん、学校の情報セキュリティに関する質問にも対応します。
たとえば、
- ログインできない
- 電源がつかない
- アプリの操作がわからない
という、ちょっとしたお困りごとから、
- 全校生徒分のアプリをインストールしたい
- OSの最新バージョンを全校一斉にアップデートしたい
- 起動しないアプリを点検して、再インストールしたい
といった教育の現場で大量に発生する業務にも対応しています。
KDCは「電話がつながるヘルプデスク」として、電話応答率が90%以上、簡単なお問い合わせであれば数分で解決へ導いてきた実績があります。
メールからのお問い合わせにも、受付時間内であれば、平均1時間以内というスピード感で応答します。
ICTのお困りごとは、ぜひ、KDCのヘルプデスクにご相談ください。
参照元:
- 非常時の端末持ち帰り、公立小中95.2%が準備済み(ReseEd:ニュースサイト)
- 学校設置者・学校・保護者等との間で確認・共有しておくことが望ましい主なポイント(文科省:PDF)
- 教育データ教育データの利活用に関する有識者会議(第11回)議事要旨の利活用に関する有識者会議(第11回)議事要旨(文科省:Webページ)
- 【交流会レポート】「GIGA端末ってなぜ持ち帰り運用にしないの?」―安心して子どもたちに使わせられるように―(GIGA HUB WEB:ICTポータルサイト)