外国のICT教育先進国から学ぶ、授業デザイン。【教育事例】
外国と比較すると、日本のICT教育は、立ち遅れているのが現状です。その理由のひとつとして、日本のICT教育の導入時期の遅れが挙げられます。。
外国のなかでもいわゆるICT教育先進国では、2000年台初頭から国を挙げてICT教育に取り組んでいます。一方、日本では、2019年に新しい学習指導要領が発表され、それに伴いGIGAスクール構想が提唱されるようになってから、ようやく国全体としてICT教育を推進する方向へ動き出しました。
少なく見積もっても10年以上も差がついた諸外国のICT教育事例は、日本の教育現場でも役立てることができないでしょうか。
この記事では、外国のICT教育事例をもとに、日本の教育現場でも取り入れられることのできる授業デザイン(授業設計)をご紹介します。
ICT教育は、なぜ必要なのか?【おさらい】
まず、日本のICT教育の現状やICT教育の必要性についておさらいします。
PISA2018が明らかにした日本のICT教育の実態
外国のICT教育と比べて日本のICT教育が遅れているという実態は、2018年に行われた経済協力開発機構(OECD)が実施した「学習到達度に関する国際調査(PISA)」において明らかになりました。
OECD加盟国37カ国中、日本の実態といえば・・・
- 学校授業におけるデジタル機器の使用時間 ⇒ OECD加盟国中最下位
- コンピュータを使って宿題をする頻度 ⇒ OECD加盟国中最下位
- 学校の授業(国語・数学・理科)でデジタル機器を利用しないと答えた生徒の割合は ⇒ 約80%
学習指導要領策定にも影響を与えるといわれるPISAにおいて、日本のICT教育は外国に比べて大幅に遅れているということが判明したのです。
PISAを受けた日本のICT教育の改革
外国とのICT教育の格差が明らかになったPISA2018は、コロナショック以前のデータではありますが、この調査が日本に与えた影響は少なくありません。この調査を受けて、文部科学省では10年ぶりに改訂された2019年の新学習指導要領で初めて「ICT教育」に言及し、GIGA(ギガ)スクール構想の運用を開始しています。
2022年現在、GIGAスクールが提唱する1人1台端末と高速ネットワークはほぼ全国に整備され、日本のICT教育はようやくスタートラインにたった状況といえるでしょう。
2030年問題に立ち向かえる教育
外国に肩を並べるICT教育が日本でも必要な理由を、別の角度から考えてみましょう。
それは、2030年問題に対する対応です。2030年問題とは、日本の人口の3割が65歳以上の高齢者になり、労働力不足が懸念される問題です。
日本では、2030年までに生産年齢人口が総人口の約58%にまで減少するという試算が出ています。世界的にもIT人材の不足が深刻化を増し、だからこそ、多くの外国が国策としてICT教育に取り組んでいるのです。
外国のICT教育事例
ICT教育に取り組む諸外国を見ると、その取り組み方は多種多様です。
ここからは、教育無償化が進むフィンランドや、「Computing」を必修科目とするイギリス、そしてアクティブラーニングが盛んなシンガポールの事例をご紹介しながら、日本でも取り入れることのできる授業デザインをご紹介しましょう。
外国のICT教育:フィンランドの事例
ICT教育先進国が多い北欧のなかでも、フィンランドは教育にかかる費用のほとんどが無料で提供されています。プレスクール(就学前教育学校)から大学院までの授業料だけでなく、教科書などの教材費、学食費も無償化されており、結果、世界トップレベルの教育水準を誇っています。
ICT教育にも早くから取り組んでおり、2015年の段階で、フィンランドのICT活用状況は90%を超えていました。
中学1年生で学ぶ情報収集の授業
フィンランドの新中学1年生は、まず、コンピュータの使用方法について学習します。具体的には、情報収集の方法と効率の良い検索キーワード設定を学んでいくのです。
フィンランドでは、コンピュータの授業が必修になることはなく、ICT端末は、あくまでも各学科の授業に活用するためのツールとして使用しています。これは、文部科学省が提唱する「文房具のようにICT端末を活用する」という考え方とも通じるものがあります。
日本でも、このように、情報に対する基本的な取り組みを伝える授業を行っている教室も少なくないのではないでしょうか? 情報に対する向き合う方を身につけることは、情報リテラシー教育の第一歩であるといえるでしょう。
外国のICT教育:イギリスの事例
イギリスは、1990年台からIT教育を義務教育課程に取り入れています。1995年には「IT」が初等・中等教育の必修教科として導入され、1999年には「ICT」と名称を変えてICT教育の継続・拡大がなされました。
その後、「コンピュータサイエンスが十分に学習されていない」という指摘を受けてカリキュラムが見直され、2013年からは必修科目として「Computing(コンピューティング)」が導入されるようになりました。「Computing」は義務教育がスタートする5歳から学習が始まりました。
この授業はプログラミングを通してアルゴリズムの理解や論理的思考能力の向上、創造力の強化を目的に実施され、授業内容は、おおむね次の3つの分野で構成されています。
- コンピュータサイエンス(CS)
- 情報技術(IT)
- デジタルリテラシー(DL)
中学生から学ぶ「Python(パイソン)」
イギリスの義務教育は4つのステージに分かれており、日本の中学生にあたる「Stage3」(12~14歳)では、週に1回程度、コンピュータの構成や原理、ネットワークの仕組みなどを学びます。
また、プログラミング言語には「Python(パイソン)」を用いて、データ構造を利用しながらモジュールプログラムの設計などを行います。
イギリスに遅れること10年弱、2021年から、日本の中学でもプログラミングを中心とした情報教育が始まっています。
日本の中学で推奨されているのは、ビジュアルプログラミング言語Scratch(スクラッチ)や、日本語で入力できる「なでしこ」などです。「なでしこ」はイギリスの中学生が学ぶ「Python」と同等レベルの、初心者向けテキスト型プログラミング言語です。
外国のICT教育:シンガポールの事例
シンガポールも、1990年代からICT教育を開始している国として有名です。シンガポールは、「人が資源」というコンセプトに基づいて政策が決められており、ICT教育に限らず、人材育成には力を注いできました。
その成果は顕著です。PISA2018においてすべての調査で2位という結果を残しているだけでなく、国際教育到達度評価学会 (IEA)主催の学力調査TIMSS2019においても、小・中学校の算数、数学、理科いずれの教科も、シンガポールがトップを独占しています。
シンガポールの小学生は、パワーポイントを使ってプレゼンテーションを行うといった授業を日常的に繰り返しており、この学力の高さとICT教育は無関係ではありません。
必須科目としてのアクティブ・ラーニング・プログラム
新学習指導要領導入後、日本でも、注目されているアクティブ・ラーニングに、シンガポールでは2017年から取り組んでいます。
シンガポールの教育に精通する山梨県立大学教授、池田充裕氏によると、小学校1・2年生には「アクティブ・ラーニング・プログラム(PAL)」という必修教科があるとのこと。学級担任が担当するPALでは、身体表現、アウトドア、スポーツ・ゲーム、美術制作の4領域を体験。この体験を通して学習意欲や協調性、創造性や探究力などを高めているということです。
日本でも、さまざまな教科で授業開発が始まっているアクティブラーニングですが、シンガポールのアクティブ・ラーニング・プログラムが推進する「小学校低学年」から、「領域ごと」に、「必修科目として」体験させる(アウトプット教育)手法は、詰め込み教育(インプット学習)とは異なるアプローチとして参考にできる部分があるのではないでしょうか。
参考:「学力世界一」シンガポールの教育は何が凄いか | 東洋経済education×ICT | 変わる学びの、新しいチカラに。 (toyokeizai.net)
日本でICT教育を進めるために必要なこととは?
外国の事例を踏まえ、最後に日本のICT教育の現場で求められることについて、考えてみましょう。
「ティーチャー」か? 「ファシリテーター」か? 教師の意識変革。
ICT教育が目指す主体的な学びでは、教師の在り方も変わります。
教師が黒板に板書した内容を生徒が書き写すといったような一方通行な授業ではなく、教師と生徒、あるいは生徒同士が相互に学び合う授業へと転換していくことになります。
そのなかで教師の役割は、知識を伝授する「ティーチャー」にとどまらず、生徒の意見を整理してまとめ、ゴールに導く「ファシリテーター」としての役割が求められます。
北欧の教師は、授業の冒頭で5分程度しか話をせず、あとは生徒たちが自主的に学びを進めるという手法を用いています。日本の授業でも参考にできるかもしれません。
ICTスキルの向上
ICT教育の推進には、教員のICTスキルの向上も求められています。ICT機器の操作やデジタル全般に苦手意識がある場合は、校内研修やICT支援員の活用をご検討ください。
そのほかにも、スキマ時間を利用したICTスキルの自主的な学習としては、次のような手法があります。
● ICT教育に関する本を読む
● 各地域の教育委員会が提供する研修カリキュラムを受ける
● 文部科学省のYouTubeチャンネルを視聴する
外部人材やサービスの積極利用
ICT教育を進めるには、新しい授業の構成を考えたり、あらたな教材を検討したり、またICT端末の運用・管理を行ったりと、これまで以上に業務が増えることが想定されます。
もともと長時間勤務が常態化している教師は、その働き方が社会問題になっています。ICT教育に取り組むことで、教師の負担をこれ以上負担を増大させないために、外部のサービスや人材を積極的に活用していきましょう。
ICT端末を用いた授業では、ICT支援員が授業支援を行います。端末の管理なども、支援員が行います。もしICT支援員が不在の場合は、電話で気軽に問い合わせができるヘルプデスクサービスもおすすめできます。
また、抜本的な教師の人材不足を補うために、文部科学省は、就職氷河期を対象にした「リカレント教育(学び直し)プログラム」も実施しています。
まとめ
- ICT教育は、なぜ必要なのか?:
- 外国と比べて、日本のICT教育は10年以上遅れている
- 高齢化と労働力の低下が懸念される2030年問題の対策が必要
- 外国のICT教育事例:
- フィンランド 中学1年で、情報収集の手法や効率の良い検索キーワードを学ぶ授業
- イギリス プログラミング言語「Python」を使ったコンピューティング授業
- シンガポール 小学生低学年でアクティブラーニングの必修科目
- 日本でICT教育を進めるために必要なこと:
- 「ティーチャー」から「ファシリテーター」へ。教師の意識変革
- ICTスキルの向上
- 外部人材やサービスの積極活用
以上、外国のICT教育事例をもとに、日本の教育現場でも取り入れられることのできる授業デザイン(授業設計)をご紹介しました。
ICT教育のような先進的な取り組みを実行に移す場合、授業支援と同時に、ICT端末の管理も必要になってきます。もちろん教職員にも大きな負担がかかるのではないでしょうか。
こうしたICT支援員の業務を補完するために、ヘルプデスクの利用が増えています。ICT支援員の不在時には、気軽に問い合わせできるところから、ICT支援員に加えてヘルプデスクを併用する学校も少なくありません。
ヘルプデスクは、対面ではなく、メールや電話が基本となりますが、多岐にわたるICT業務について気軽に問い合わせできるのがメリットです。
KDCのヘルプデスクには、ICT支援員やシステムエンジニアなどICTのプロフェッショナルが常勤しており、端末のトラブル対応からアプリの基本操作まで幅広く支援します。
たとえば、
- ログインできない
- 電源がつかない
- アプリの操作がわからない
という、ちょっとしたお困りごとから、
- 全校生徒分のアプリをインストールしたい
- OSの最新バージョンを全校一斉にアップデートしたい
- 起動しないアプリを点検して、再インストールしたい
といった教育の現場で大量に発生する業務にも対応しています。
KDCは「電話がつながるヘルプデスク」として、電話応答率が90%以上、簡単なお問い合わせであれば数分で解決へ導いてきた実績があります。
メールからのお問い合わせにも、受付時間内であれば、平均1時間以内というスピード感で応答します。
ICTのお困りごとは、ぜひ、KDCのヘルプデスクにご相談ください。
参照元
- OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント(文科省:Webページ)
- 義務教育段階における1人1台端末の整備状況(文科省:PDF)
- ICT教育とは(デジタル・ナレッジ:Webページ)
- 諸外国におけるデジタル教科書・教材の使用状況について(文科省:PDF)
- ICT教育が注目されている理由 日本の現状と海外の事例(ユイコモンズ:Webページ)